B大学ラグビー部との試合に勝つため、3人のリーダーが車座になって話し合いを行うと、これまでお互いが知らなかった事や誤解していた事、想像もしていなかったアイディアが生み出されていきます。
3人共が経験がないミーティングの場に変化を始めました。キャプテンとチームリーダーの枠が取り払われて、一人ひとりが自発的に話し、意見を出し合い、白熱した論議へと展開していきます。
私はこの時点で一筋の光明を見出した思いでした。これが後に改善を加えて生み出される『自律系コミュニケーション』の基礎となります。
以降は3人のリーダー達の役割をはっきりさせました。その後のミーティングからは3人を補助するサブリーダー数名が加わり、チーム一人ひとりの選手の個性や特徴、強味を部員達が共有していきます。
同時にB大学のチーム分析を行い、様々なケースを想定した戦術を短期間で練り上げます。普段の練習内容も改善され、よりハードになった事は言うまでもありません。日々ハードになる練習内容の意図や目的も部員にしっかり説明し、上下の無い部員間のコミュニケーションを大切にするようになりました。
後日談になりますが、部員達は当初のハードな練習に加え、今まで無かった練習中のコミュニケーションに戸惑っていましたが、3人のリーダーの熱意と本気度に徐々に期待と希望を抱き、モチベーションが沸いてきたそうです。
これまでとは一変したミーティングとハードな練習で怒涛の2週間が過ぎ、いよいよ試合当日です。試合前のアップ練習でも、A大学の選手達は強豪B大学の屈強な選手達を目の前にしても堂々と向き合う気迫をグランドに醸し出していました。
キックオフの笛が鳴りました。試合はやられたらやり返す、文字通りシーソーゲームです。今日のA大学はなにかが違う、そう思わせたのでしょう。前半10分には、B大学の選手やベンチのコーチ陣から戸惑いと焦りの表情と声が表出していました。
昔からラグビーの観衆は、大学OBなどの関係者くらいで少ないものですが、気迫と熱量の篭ったこの試合は別の大学関係者や仲間達の観衆が徐々に増えていき、後半にはグラウンドを取り囲むように一杯になりました。
この現象は昨年のラグビーW杯からも察せる様に、昔も今も変わりません。
試合は最後の最後まで予断を許さない緊迫した展開でした。勝敗の行方は一歩、いや半歩を相手より早く動いた方に傾くだろうと思わせるほど僅差な差しか感じられません。誰もが手に汗握り、声を枯らして声援を送る、それほど素晴らしい両校にとって誇るべき試合になっていました。
ノーサイドの笛が鳴り、大歓声の中で俯くB大学選手達。
そして歓喜に沸くA大学選手達。
A大学ラグビー部は大方の予想を裏切り、見事に勝利を成し遂げました。
私は安堵と同時に湧き上がる感動と嬉しさ、そしてこの素晴らしい瞬間に関わらせてくれたキャプテンをはじめとした選手達に感謝の気持ちでいっぱいになりました。
試合後の選手達の言葉です。
「今まではトライを取られると意気消沈してしまい、疲れがドッと来ました。けど、今日はリーダー達の雰囲気が違っていて、まだやれる、まだ勝てると思えました」
「疲れもなぜか少ないように感じました、というか疲れが先輩たちの熱意を感じて、なぜかよく分かりませんが少なくなったように思います。(今でいうアドレナリンなどの脳内物質と思われます)」
試合後の打ち上げでは、ただの追っかけだった私がキャプテンから、そして多くの選手達から「ありがとう」の感謝の言葉を頂きました。
それは、同時に私の自律系コミュニケーションの理論が実際に証明されたという達成感を味わった瞬間でもあります。
監督もコーチも居ない中で、部員が自主的・能動的にラグビーに向き合い、胸襟を開いて積極的なコミュニケーションをとり、工夫を加えた練習を考え、何度も挑戦し、最後は自信を胸に番狂わせの結果を創り出しました。
この経験が弊社独自のスパンティニアス・アクティブ・トレーニング(自律的能動トレーニング)のスタートになります。
そして、私の人材育成の原点です。
もう40数年前の話ですが、決して忘れられない2週間の貴重な体験です。
吉田