A大学ラグビー部の事例研究をテーマにした卒論を進めていたある日、友人のキャプテンが突然訪ねてきました。そして重苦しい面持ちで唐突に語り出します。
「B大学とC大学の試合を観てきた。B大学が勝った。40点差以上だぜ、やばいよ…」
C大学は、かつてA大学を相手に40点差以上で勝利したチームです。
簡易図式にすると下記の様な状況になります。
B大学 >40点差> C大学 >40点差>A大学
単純計算であれば次戦でA大学はB大学に80点差以上での敗戦が予想されます。
もちろんスポーツの勝敗は足し算で測れるものではありません。しかしキャプテンはB大学との圧倒的な実力差に慄き、勝つ見込みどころか大差で負けるかもしれないと落胆していました。
B大学ラグビー部は全国大会出場経験のある有望な高校生ラガーマンを多数スカウトし、経験豊富な監督やコーチが揃う、近い将来に大学ラグビーで日本一となって多くの日本代表選手を輩出する強豪校です。
一方でA大学ラグビー部は、全国大会出場レベルの選手は数名であり、3部リーグ優勝を目標に掲げたチームでした。A大学ラグビー部を応援してきた私も、このままではエリートラガーを有し高い目標を持つB大学ラグビー部に勝つのは極めて難しいと感じていました。
B大学との試合は既に2週間後に迫っていました。
私もなんとか力になりたいと思い、アンケート調査票を基に作成したマトリックス図を示し現状のチーム状態と分析結果を報告しました。
・チームはそれぞれフォロワー(部員)が3人のリーダーをリスペクトして
おり、大きな3つの山のマトリックス図になっていること。
・そのことは問題ではなく、むしろ(当時の)ラグビーというスポーツには
バランスのよいチームである。
・が、課題がある。それは、3人のリーダーの関係。決して仲が悪いわけでは
ないようで、むしろ良い友人関係。
・しかし、ラグビーに関するコミュニケーションが希薄。
・お互いに力量は認めているが、問題や課題、弱みを確認し戦略戦術を練る
ことをしていない。
・実はリーダーそれぞれ少なからず不満や問題を抱えている。
・お互いに正直に思っていること、感じていることを伝える、言うのを躊躇っている。
(当時の原文ママ)
今読み返すと卒論としては稚拙な表現で顔を覆いたくなりますが、
この結果を基に、先ずは3名で徹底的に話し合うことを勧めました。
翌週から毎週1~2回は練習後に胸襟を開くミーティングが実施されました。そこにはキャプテンの要望で私も立ち会う事になります。
今思えばこれが自身の初ファシリテーションになりますね。
やはり最初が重要でした。それはキャプテンがなぜこの機会を作ったのかを伝える必要があったためです。キャプテンは明確な目標設定として『徹底的に話し合おう、B大学に勝つため』と掲げました。同時にキャプテンとしての覚悟を感じさせる表現になっていました。
対話が始まると、私はまず3人で話すのではなく、ペアになるように設定しました。そして、些細な事でもくだらない事でも、感じている事、考えている事を相手に話すように提案しました。
そこに一つルールを設けます。
話す側と聴く側に分かれ、数分後にお互いが交互に繰り返すというルールです。これを相手を入れ替えて3回ほど行い、最後に全員でペアで話し、聴いた事を出し合います。
これは、現在でも弊社研修で行う重要なパートの一つです。
後編につづく